航海日誌2018/11/26 RDR2018 ラダートラブル
強烈な低気圧から逃げきれず風速計は45〜48ktで息をしていた。
その瞬間は真夜中にやってきた、スタボータックのメイン3P+ストームジブでボッコンボッコンに叩かれながらアップウインドを帆走っていたところ突然ポート側のラダーが抜けたようにティラーがフリー状態になった。
や・ば・い???カモ
その直後の風速は50ktを超えた!
落ち着け、落ち着け、船はすぐに沈まない!
先ずはお初のヒーブツーってやつ??をやってみたら見事に船が安定した。
へ〜良いじゃん。壊れたシモ側のラダーを覗き込んだら脱落はしていないが左右にブランブランしている。
この状態が続けば所謂ポストが壊れた状態に近い感じの漏水が始まるかラダーそのものが壊れるかで大変な事になる。
取り急ぎ壊れていないカミ側のラダーを守るため、それに繋がっているセンターティラーをジブシートで中立に固定して船内に入り、予備のスペクトラとセール帯を鷲掴みに船尾の水密隔壁の中に潜り込んだ。とにかくこの振れを止めなければとラダーを雁字搦めにシバいて固定した。ホットする間もなく損傷部位がどこなのか探した。
えっ何でここが壊れる?
バランスしているツインラダーには、あまり大きな力がかからないのだが?
ラダーとティラーを接続する樹脂製のジョイントパーツが割れていた。これは製作組み付け時の先ネジ用の穴の位置が悪くストレスが狭い範囲に集中して壊れた事が容易に想像できた。
想定外の部位でもありスペアパーツを積んでいない。レースはほぼ中間地点の大西洋ど真ん中で、ほとんど誰も選択していない北周りのコースを走っていた、大西洋ひとりぼっち状態だ。
あ〜万事休すか?
リタイヤとサルベージかという単語が頭の中をぐるぐる回った。
リタイヤして本船に身体だけ救助され艇体放棄した場合は後日自力で船を捜索しなければならないし、さらに北側200マイル先にはアゾレス諸島のオルタ島があるが機走するには燃料が全く足りないし、まだ低気圧が居座っていて北には向けられない。
とりあえずレース委員会に状況報告を入れた。
腹が減っては戦は出来ぬというか、散々戦い続けて腹が減った。
そうだ、どん兵衛食ってから考えるべ〜
という事で一息ついて、再度最後尾の水密隔壁内に潜り込み観察を始めた。水密隔壁内は棺桶のごとく狭い空間だ。
もしやツインラダー左右のパーツは同じで最悪使い回しできる?
現実的ではないが付け替えながら走れば艇体放棄は免れられそうだ。
ああ、早く帰らないと冬のボーナス査定が間に合わないな~
最初の避航でもリタイヤを考えたのは、それが大きな理由だった。
レース中もメールやら電話で仕事はしているのだが、流石に12インチのノートパソコンでエクセル広げて約200人超の社員のボーナス査定はしんどい。
(結局、帰国後のホテルに優秀な社員から査定表の入ったPCが届いていて、明日の朝までに査定をお願いしますとクールなメッセージ)
修理出来るかな〜
材料がないな〜
あっ、バウスプリット壊れた時や船体に穴が空いた時用に積んでたグラスとエポキシ使えるか?
よっしゃ〜
多分イケる!
でも一回分しか積んでないから失敗した終わりだな〜
やるっきゃ無いけど慎重に決めねば!
念のためエポキシの硬化時間を確認したら6時間もかかる。失敗は許されないから仕方ない。我慢だ。
作業に取り掛かる。
先ずはスペアのジェットボイルのガスタンクにトーチバーナーヘッドを付けて濡れた部位の水分を飛ばした。
グラス繊維をどのように切るか?
損傷部にどのように巻きつけるか?
6時間の硬化中にパーツが転げ回らないように固定する方法は?
エポキシが船内にこぼれないように作業するには?
作業工程を頭で整理しイメージトレーニングした。
さあ、やるべ!
2液樹脂コネコネしてグラスに塗布
レモンかじって気分転換
硬化まで、六時間待つのだ、 寝る!!
ピーピーピー
アラームで起きた
どれどれ〜
ウォー上手く出来てる!
さあ取り付けだ!
水密隔壁内に潜る
工具でカチャカチャ
よっしゃー
これで家に帰れる。ラストスパートだ!
多分ボーナス査定も間に合う
かな?
ところがギッチョン、ここからフィニッシュまでの発電をする燃料が相当厳しい
燃料消費と発電量の最良の組み合わせを探る研究が始まった。
ハラハラドキドキのロールプレイングムービーみたいですねぇ❗窮地から逃れられるのは、頭脳の軟らかさが肝なんですね。船体放棄した場合は後て自分で捜索という縛りはきついけど、見事な自己責任ですねぇ。